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暗黒星雲

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2010年 08月 12日

塔2010年8月掲載 <池本一郎選>

天むすを食べながらする指相撲瀬戸内の海を車窓に見つつ
丸のまま引き受けるつて言つたけど散り始めたら支へきれない
まつすぐにわたしに向かひ歩ききてわたしを通り抜けてゆく少女
空耳と思ひてゐしがイヤフォンの歌の合間に誘ふ声がす
腰痛のきみを迎へにゆく坂の右手の藪に生ふる苦艾
母親に会はなければと思ひつつ寒い四月に足踏みをする

# by araimitsu | 2010-08-12 17:04 |
2010年 07月 11日

塔2010年7月掲載 <花山多佳子選>

説明を納得せずに夕まぐれなぜどうしてとメールが絡む
接点はただひとつだけ早朝の手水場で聞く走る足音
上の子も下の子もまた東京へ行つてしまつた春も来ぬのに
耳鳴りをすり抜けてくる好きだつた海辺の町に降る雨の音
知つてゐる音調なんだ予告なくこれを聴いたら隠しきれない

# by araimitsu | 2010-07-11 22:54 |
2010年 06月 13日

「配偶する者」 塔2010年6月号特別作品<三井修選>

雲井阪ふたりで歩くおそ夏の降り止んだ午後葛切り食べに
真夜中の居間に一人で座りゐてあなたは赤い目にて振り向く
集落に秋の陽は照り白蝶の群れとぶ野辺に人の子をらず
青柿を投げつけられた沢蟹のやうに凹んでしまつた僕ら
ストーブの前に寝そべり愚痴こぼしイルカのやうに身を捩るきみ
立春の朝のあなたは寝不足で辞めるかどうかまだ迷つてる
(腰痛を治すためにも歩きたい)雨のなか傘さして付き合ふ
また今朝も暗い顔して昨晩の残りのおかず器に詰める
鼻水をすすりうつむきファッション誌膝にのせ読む早春の夜
接点を探し言葉を積み上げてまた崩されるシジフォス我は
ドラマ見つつ居眠りをする横顔にときをり浮かぶ苦悶の表情
穏当な結論だらう僕らには別れるための気力さへない
最近は徐々に仕事を辞める気になつてゐるらし決められぬまま
向かう岸をあなたは歩く真つ直ぐに こちらの岸を振り向きもせず
図書館に忘れたはずの雨傘を差してあなたは歌ひつつ来る
眼科歯科心療内科スイミングこの頃きみの通へるところ
そよ風にゆらりふうわり誘はれて春のおすすめ手長えび食ふ

# by araimitsu | 2010-06-13 15:32 |
2010年 06月 13日

塔2010年6月号掲載 <黒住嘉輝選>

公園のベンチの僕の手の中で眠つたままの携帯電話
画面から顔をあげれば我の待つ電車はすでに扉閉じたり
社会から切り離されて毎日が暇になるのがとても寂しい

# by araimitsu | 2010-06-13 15:20 |
2010年 06月 13日

塔大阪歌会2010年6月詠草

リビングをペットのやうに這ひ回る君はまう居ぬドアを開けても
胃袋に笹の葉つめた心地して雷雨の中を母に会ひにゆく

# by araimitsu | 2010-06-13 15:18 |