暗黒星雲

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2010年 01月 06日

鶏頭 (2009年12月号掲載特別作品、三井修選)

窓越しのあなたはいつもうつむいて書類みてをりときに微笑む
お茶場からふつと出できて会釈してちひさき背中見せて立ち去る
我が影の頭(かうべ)がきみのスカートの下の真白き脚を過りぬ
お嬢さんお入んなさいこの傘にと言つて遊ぶ雨の降る日に
海亀の拾つた恋は七月の梢に光る風のささやき
軒下の身じろぎをせぬかなへびは朝日のなかで生まれたばかり
美術商森川はドア閉ざしをり雨に鎮もる福井あるけば
焼きたてのナンをちぎつて食べるきみの下唇のナンの小片
ハイヒール履かないで来て手水場の扉はずつと開けて置くから
窓そとを見下ろすきみは銀色にドーム光らす月が嫌ひと
大の字がはるかに燃える公園の砂場の砂に埋めたレモン
赤ちやんはもう抱きましたかと聞かれかはいいと言ひ並んで歩く
ひとすぢの揺れるけむりの行く先を目で追ひながら何も見てゐぬ
一瞬のためらひののち振り向いて離れてゆきぬ金曜の夕
鶏頭の縮れた赤い花を挿すもつれた糸はほぐされぬまま
二階から駆け降りくればごめんねと間違ひ電話のすすり泣く声
真夏日の車の中に干からびた別れたはずのきみのまぼろし
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by araimitsu | 2010-01-06 15:43 |


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