2009年 06月 26日
花の名を覚えては忘れ新しき花を見つけてその名前聞く (古賀泰子) 昭和二十年は空襲の年夜の空に百千に裂けて散る焼夷弾 (澤辺元一) 新品の兄の自転車弟は手に触れにけり兄の居ぬ間に (藤井マサミ) 約束は果たされぬものしろがねのバターナイフが一瞬陰る (貞包雅文) ヤクルトのストローの袋破れずにむらむらと居り駅のベンチに (しん子) この春は帰らざる春 テーブルを真っ白にして作る大福 (藤田千鶴) 尻尾左にきりりと柴の小太郎は老爺を曳きてあらはる (山下れいこ) 一字だけ漢字まじりとなりし子が国語の本を読んでいる声 (松村正直) バス停にわれを降ろして大型のバスは尾灯の中に入りゆく (古林保子) 被害者の母なればこそ人間の死を望みても責められはせず (新谷休呆) ホームにて立ちつくす我 生産のラインに乗らぬ部品のように (関口健一郎) こゑの意図選り分けながら歩みをり暗闇のなか手の鳴る方へ (佐藤陽介) 靴もたぬ故に歩めぬ竹の子を春一番が掘りおこしいる (武部秋夫) 消灯の後を何思ふ母ならむ関東平野こよひ満月 (仙田篤子) 初めての品川駅へ降り立てばビルの谷間にみっちゃんとなる (秋野道子) 道問へば細き指もて地図たどり赤きマニュキア小さく動く (加藤傳治) しかたなく選んだなんて言えないし笑顔見たくてなんてウソです (西之原正明) 部屋のドア開いた気がして振り向けば真鍮のノブ我を見ている (村上次郎) 春となるすこし手前で迷ひ子になりさうな風 ほほずりをする (紀水章生)
by araimitsu
| 2009-06-26 09:14
| 塔
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